金融機関口座の相続手続について
被相続人名義の金融機関の口座の相続手続についてなすべき一般的な流れを以下に記載します。
①金融機関への連絡
被相続人名義の通帳に金融機関名・支店名・電話番号の記載がありますので、電話連絡をし相続が開始した旨を伝えます。金融機関が相続の開始を知ることで口座が凍結され、その後の預貯金の引き出しができなくなります。金融機関によっては新聞のお悔やみ欄を確認し、連絡を入れた時点で口座が凍結されている場合もあります。
各種料金の引落口座として設定している金融機関に連絡する場合は、事前に引落口座の変更を済ませておくように注意しましょう。
②書類の受領と残高証明書
相続手続を開始するにあたり、受取った関連書類に必要書類を添付して金融機関へ提出するというのが一般的な流れです。金融機関によっては書類を郵送してくる場合もありますが、こちらから支店に出向くよう言われる場合もあります。この書類の受領と同時に「残高証明書」を請求しましょう。あまり聞きなじみのない書類かもしれませんが、残高証明書の発行請求によって、金融機関は被相続人名義の取引をすべて調査してくれます(いわゆる名寄せ)。そのため、預貯金の漏れを防ぐことができます。
なお、ゆうちょ銀行に関しては残高証明書の発行依頼のみでは足りず、「貯金等照会書」を提出する必要があります。
③相続人調査
相続人調査は、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本をすべて取得するところから始まります。遺言書がある場合に戸籍の一部を省略できる場合もあります。令和6年1月29日現在では戸籍謄本は亡くなった方の本籍地の市区町村役場に請求しなければなりませんが、令和6年3月1日からは戸籍の広域交付制度が開始されますので、最寄りの市区町村役場にてすべての戸籍を取得することができるようになります(ただし、兄弟の戸籍が取得できないなど条件あり)。戸籍の取得には時間がかかりますので、早めに動いた方が良いでしょう。
なお、金融機関口座が複数ある場合(通常はいくつかの金融機関の口座をお持ちの方が多いです)に、1つの金融機関の手続が終わったら次の金融機関という具合に手続を進めていくと、すべての金融機関の手続き終了までに数カ月かかってしまいます。戸籍謄本が1セットのみのしかない場合はそのようにせざるを得ないのですが、複数セット用意するとそれだけ費用も掛かってしまいますので、金融機関の相続手続を同時並行的に行いたい場合は「法定相続情報一覧図」を作成しましょう。簡単に言うと、収集した戸籍を法務局に提出することによって、戸籍の束に代わる書類(大体A4用紙1枚)を無料で必要な分だけ発行してくれます。これを銀行に提出し、同時並行で手続を行うことで手続期間が飛躍的に短縮されます。
④相続手続書類提出
書類が揃えば金融機関へ提出することになります。その際の必要書類は基本的に3つパターンがあります。「遺産分割協議書あり」「遺言書あり」「どっちもなし」です。どっちもなしの場合は法定相続分に従って手続を進めることになります。
遺産分割協議書あり → 預貯金債権の承継人とされた相続人が単独で手続可能。遺産分割協議書・遺産分割協議に参加した相続人全員の印鑑証明書必要
遺言書あり → 預貯金債権の承継人とされた相続人が単独で手続可能。遺言書が必要(自筆証書遺言の場合は検認済証明書等も必要)
どっちもなし → 相続人全員の印鑑証明書が必要になります。
⑤相続手続終了
手続終了後の金融機関側の処理としては、「口座解約」「名義変更」の2つの方法があります。金融機関、口座種目により取り扱いが異なりますのであらかじめ確認が必要です。
それらの手続が終了しますと、無効処理がされた通帳や預金利息計算書などを受領します。問題なく承継できているかを確認し手続は終了となります。
⑥注意点まとめ
①金融機関に連絡をすると口座を凍結されますので、各種契約の引落口座になっている場合は先にそれらの引落先の口座の変更をしておきましょう。
②休眠口座等の漏れがないように忘れずに残高証明書の発行を依頼しましょう。ゆうちょ銀行では「貯金照会」が必要です。また信用金庫や農業協同組合(JA)では「出資金」もあり得ますのでご注意ください。
③承継方法の選択により「解約」「名義変更」の利息差が生じる場合があることや、承継方法が限定される場合もありますのでご注意ください。
余談ですが、私が司法書士資格を取得する以前、家族の相続手続を自分で行ったことがあります。その際に、戸籍の束をもって某銀行に行ったのですが「戸籍が欠けているのでそれを補完して再度ご来店ください」と言われたことがあります。そのまま銀行を出て、数十メートル先の某信用金庫にそのままの形で持ち込み「某銀行さんにはそういわれたんですが、足りてませんか?」と質問し、チェックしてもらったところ「これで揃ってますので手続できます」と言われました。その後再度銀行へ出向き「某信金さんには揃ってると言われたんですがどこが足りてないのか教えてもらえますか」と言ったところ、別の担当者が代わりにチェックし、しれっと「問題ないですよ」と一言。
つまり、何が言いたいかというと、金融機関の方もミスをしますので、話を聞いてておかしいなと思うことがあれば必ず確認をすることが必要です。また、銀行の相続手続には時間がかかることが通常ですので、早い段階で「法定相続情報一覧図」を作成しておくとスムーズに進められるでしょう。
投稿者プロフィール
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令和2年度司法書士試験合格。東京都内の司法書士法人、司法書士・行政書士事務所で実務経験を積み、令和5年生まれ故郷である札幌で司法書士事務所開業。
会社・法人登記及び相続関連業務を得意としています。
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