他士業の実務経験は活きるか
札幌宮の森の司法書士、鷲頭です。
私は現在司法書士の登録のみをしておりますので、司法書士業務しか取り扱うことができません。行政書士試験に合格しており、登録をすることで行政書士実務を行うことも可能になりますが、登録せずに行政書士業務を行うことはもちろん、行政書士を名乗ることもできません。
司法書士の登録をする前、「司法書士+行政書士」「司法書士+土地家屋調査士」兼業の事務所で勤務したことがありますが、当時はともに補助者として勤務しておりましたので、司法書士以外の業務経験もあります。今回はその経験について記事を作成しました。
司法書士+行政書士
まず「司法書士+行政書士」です。資格の名前こそ似ていますが、経験上それほど業務の親和性はなかったと記憶しています(あくまで私の経験です)。通常業務として、司法書士の独占業務である登記業務を行い、たまに入ってくる建設業許可申請や古物商許可申請などの行政書士の独占業務を行うというスタイルでした。業務の内容が異なり、都度調べながら進めることで業務スピードが落ちてしまうなど、非効率な部分はありますが、そのような許認可を受任した会社からは商業登記でも依頼がきますので、営業として考えるのであればありだと思います。以前にも言及しましたが、行政書士で開業を目指している方で就業先が見当たらない場合、司法書士・行政書士の兼業事務所で経験を積むというのも一つの手段です。ただし、ほとんどの事務所が司法書士業務をメインにしていると考えられるため、そちらが主業務にならざるを得ないです。
行政書士で開業を考える場合、実務経験なしでできるのか?という不安があると思います。私も兼業の事務所に入ってみて初めて行政書士業務(建設業の事業年度終了届)に触れました。特にボスに業務を教わりつつやったわけでもなく、自治体が用意している手引きを参照しながら業務を完了させることができましたので、あまり不安に思う必要はないです。許認可によっては難易度が高いものもありますが、建設業や古物商許可などスタンダードな許認可を一度やってみれば自信になると思います。実務講座を受講する必要はないと思います。むしろそのお金を広告費用などに投入するほうがよいです(実務講座を私自身が購入した経験からの意見です)。
ただ、上記はあくまで補助者経験からのお話ですが、実際に司・行を兼業で行う場合、業務によって相乗効果を発揮する組み合わせはあると思います。例えば相続手続で、自動車の名義を変更したり廃車手続をするなども考えられますし、司法書士として会社を設立登記をした後に、併せて許認可を取得するなどです。実際にこれらのパターンを経験しましたが、個人事務所としてはその分報酬をいただけるのはやはり魅力的です。
司法書士+土地家屋調査士
次に「司法書士+土地家屋調査士」です。これは不動産登記の際の最強パートナーです。建物を新築や増築したり取壊をする際、登記申請する必要があります。これにより不動産登記簿の「表題部」が作成されたり、表題部が抹消され登記簿自体が除去されます(その後閉鎖登記簿になります)。これは土地家屋調査士の独占業務です。家屋以外にも土地について分筆・合筆をする場合は土地家屋調査士が現地の測量をし、地積測量図を作成や土地の表題部登記を行います。
一方、司法書士は不動産登記簿の「権利部」の登記を申請します。所有権・抵当権・賃借権・地上権・地役権など様々な権利がありますが、それらを登記するのが司法書士の業務範囲になります。したがって、これらのダブルライセンスを持つことで不動産登記簿の全てを業務にすることができます。
ここから先はあくまで補助者目線での感想になるのですが、この組み合わせは本当に大変だと思います。私の(補助者としての)経験上、日中はほとんど外出しています。役所回り、現場の調査、測量、境界標設置、所有者宅訪問等。夕方事務所に戻ったら、取得した書類の取りまとめや書類作成をし、大体これで一日終わってました。
一方、日によって司法書士の不動産の決済に同行したり、登記申請を測量の途中に行ったりとスケジュール管理も難しいですし、細かいところですが作業服とスーツの着替えも結構多いので、そのあたりの調節も必要になります。私も司法書士試験勉強中は、司法書士に合格したら土地家屋調査士も取得しようと考えていたこともありますが、開業コスト(士業の中でおそらく土地家屋調査士が一番開業コスト高いでしょう)や諸々検討し、その考えは捨てました。従業員がいる事務所なら成り立つかもしれませんが、1人事務所ではどちらかに専念せざるを得ない可能性があり、難しいと判断しました。
いかがでしょうか?他士業の経験ですが、個人的には「活きる」という結論です。一例ですが、司法書士業務ですと机上で完結していた情報が、土地家屋調査士業務では役所を訪ね、現場を実際に探すなど情報を深く仕入れることもありました。
兼業事務所や複数士業の法人なら、他士業の知識や繋がりを学ぶことができるため、その後のキャリア形成にも大きく貢献するかもしれません。
ただし、人の出入りの激しい事務所もありますので、高額な給与に惑わされず、情報をたくさん集めて検討の上で飛び込むことをお勧めします。
投稿者プロフィール
-
令和2年度司法書士試験合格。東京都内の司法書士法人、司法書士・行政書士事務所で実務経験を積み、令和5年生まれ故郷である札幌で司法書士事務所開業。
会社・法人登記及び相続関連業務を得意としています。