相続登記の必要書類
相続が始まることにより、被相続人(亡くなった方)名義の不動産の相続登記の申請が必要になります。
※令和6年4月1日から義務化します。過料の対象になりますので、ご注意ください。
登記申請と言うと難しそうですが、極端な話、申請書を作成して必要書類を添付して法務局に出すだけです。ですが、申請書の作成が特殊であったり必要書類を収集するのが煩雑だったりするので司法書士に依頼するパターンもありますが、司法書士に依頼をすると司法書士報酬がかかるので、自分で登記したいという方は以下をご参考に書類を集めてみてください。
以下は、被相続人所有の不動産を遺産分割協議によって、被相続人である父、相続人(妻、長男、長女※長男長女は成人)のうち妻を所有権登記名義人にするというスタンダードなケースを想定しています。
①登記原因証明情報
不動産登記においては、どのような登記申請をする場合であれ、その登記の原因を証明する必要があります。例えば登記簿に記載されている所有者の住所に変更がある場合、「住所変更登記申請」が必要ですが、この住所を変更したことを証明する登記原因証明情報としては基本的に「住民票の写し」です。※細かな論点は省きます。
本題です。
1.戸籍謄本
相続の開始を証明するために、まずは被相続人が亡くなったことを証明しなければなりませんので、死亡の記載のある戸籍が必要になります。しかしこれだけでは足りず、死亡から出生に遡り、連続するすべての戸籍を集める必要があります。これにより死亡の事実の他、相続人が確定します。なお、相続登記に必要な戸籍に関しては被相続人の10歳程度まで遡れば結構です。10歳未満で子供が存在する可能性が低いという考え方ですが、可能な限り出生まで遡る戸籍を集めたほうがよいと個人的には考えます。相続登記のみではなく被相続人名義の銀行口座解約等においては、金融機関により取扱いが異なるからです。さらに、兄弟姉妹や甥姪が相続人になる場合は戸籍の束が膨大になり数十通の戸籍請求が必要となるケースがザラで、時間がかかりますので根気が必要になります。戸籍は、被相続人の本籍地の役所に請求することとなります。※令和6年3月1日以降、戸籍謄本の広域交付制度が始まりどこの役所でも戸籍の取得が可能になりますが、この制度については注意点もあるためまた別記事を書きます。
なお、遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、その相続人全員の存命を証明する必要もあるため、相続人全員の戸籍謄本も必要です。
2.遺産分割協議書
相続人全員で遺産分割協議を行ったことを証明するための遺産分割協議書が必要です。戸籍謄本によって確定した相続人全員での遺産分割協議書を作成し、全員が実印を押印する必要があります。なお、遺産分割協議が全員でなされていなければ協議は無効になりますので、戸籍をしっかりと読み解く必要があります。
3.印鑑証明書
遺産分割協議に参加した相続人全員の印鑑登録証明書が必要です。原則、印鑑登録証明書は本人のみが取得できる書類であるため、実印+印鑑登録証明書を併せて提出することで、本人が確かに遺産分割の内容に納得した上で実印を押印したという推定が働きます。なお、この印鑑証明書には発行後3か月以内というような期間の縛りはありません。
4.住民票の除票または戸籍の附票
不動産登記簿には所有者の氏名と住所の記載があります。ところが所有者が住所を移転している場合、登記簿記載の住所と実際の住所が一致しないことになります。そのため、同一人であることを証明するために、住所の変遷を辿れる書類を提出することにより同一人物であることを証明します。登記簿の住所から一度のみ転居している場合は住民票の除票(本籍地記載のもの)で足ります。ただし複数回転居をしている場合、住民票の除票では旧住所は直近の住所までしか記載されませんので、戸籍の附票(本籍地・筆頭者記載のもの)を取得することで、過去の住所の変遷を現住所まで繋げることができるようになります。なお、それでも住所が繋がらないといった場合もありますが、その際は権利証を添付します。
古い不動産ですと権利証が見つからないことも多々あります。その場合ですが、最終手段として上申書を提出することとなります。「登記簿に記載の被相続人は間違いなく自分の相続人である」旨を記載し、相続人全員の署名及び実印での押印(それに加えて印鑑証明書)の上提出する必要があります。しかし、法務局により上申書のみでは書類の不足を指摘されることがありますので、上申書の提出を考えるようになった時点で法務局へ相談してみることをお勧めします。
②住所証明情報
1.住民票の写し
実際に不動産を取得することになった相続人の住民票の写しがあればそれで構いません。なお、戸籍を集めていく取っ掛かりになりますので、本籍地は記載しておきましょう。個人番号は記載しないように注意してください。
住民票の「写し」と言いますが、これは役所やコンビニで取得したそのままのものです。コピーを取ってそれを提出するわけではありませんのでご注意ください。なお住民票の写しの返却を希望する際は、コピーを取って原本とコピーを各1部提出する必要があります。
③評価証明書
1.評価証明書
登記申請を行う際、誰が申請を行うにせよ「登録免許税」という税金がかかってきます。土地であれ建物であれ、不動産評価額×0.4%が登録免許税の算出方法です。そして、不動産評価額は評価証明書に記載されており、この書類を添付することにより法務局の登記官が登録免許税を確認することができます。
以下簡単な計算例です(中途半端ですが、土地1000万9500円、建物500万5500円とします)
【申請書を土地と建物で分けるパターン】
土地の登録免許税算出方法
①まずは「課税標準」を決定します。評価証明書記載の土地評価額の1000円未満を切捨てるだけです。1000万9500円→1000万9000円(課税標準)
②次に課税標準1000万9000円に0.4%を乗じます。→4万36円
100円未満の端数を切捨てたものが登録免許税です。上記の場合、36円を切捨てた4万円になりました。
建物の登録免許税算出方法(上記と全く同じです)
①500万9500円の端数処理をします→500万9000円(課税標準)
②500万9000円×0.4%→2万36円 →端数処理(36円を切捨てた)後の2万円が登録免許税です。
そして、土地建物の登録免許税を合計した金額6万円が登録免許税になるので、収入印紙(4万円分と2万円分)をそれぞれの申請書の印紙台紙に貼って申請することになります。
ところで、不動産登記申請ですが、同じ法務局管轄の不動産であれば複数の不動産であっても1通の申請書で申請することができます。その場合の計算方法も見てみましょう。
【土地と建物一括申請のパターン】
①土地と建物の評価額を足します(この際、端数切捨てはしないでください)→ 土地1000万9500円 + 建物500万9500円 = 1501万9000円になります。
②1501万9000円は、1000円未満の数字がありませんので端数処理は不要です。そのまま0.4%を乗じます→6万76円で端数処理した6万円が登録免許税です。
申請書は1枚なので、6万円分の収入印紙を貼って申請することになります。
なお、一括申請をする場合、分けて登記申請するよりも100円だけ登録免許税が高くなることがありますので、気にされる方は両方の方式で登録免許税を算出してみてください。
評価証明書は不動産所在地の市役所等の税務課で取得できます。自治体により担当部署の名称や手数料が異なりますのでインターネット等でご確認ください。さらに毎年5-6月頃にお手元に届く固定資産税課税明細書にも不動産評価額が記載されておりますので、そちらを添付書類として提出していただいても結構です。
④その他
基本的には登記申請書を作成し、上記で解説した①、②、③の書類を添付して管轄の法務局に提出すれば登記申請は受け付けられます。しかし、相続手続は当然登記申請だけではなく、金融機関の預貯金解約や自動車の手続、株式の名義変更など様々な手続が必要になります。苦労して集めた公的書類を出し切りにしてしまうと、他の手続の際、公的書類を集めなおさなくてはいけません。そのため、ぜひ原本還付手続を利用しましょう。
具体的な方法としては、返却を希望する書類全てのコピーを取ります。そして一番最初のページに「以下は原本と相違ない 住所〇〇 氏名〇〇」と記入し、その横に申請書に押印したものと同じ認印を押印します。そしてコピーのページを契印で繋いでいけばOKです。
それで原本還付の書類を作成していると、ある問題に直面すると思います。「戸籍謄本全部コピーするのか?」という問題です。
結論を言うと、そうする必要はありません。全部コピーを取りたくない場合は、相続関係説明図という書類を一枚作成する必要があります。簡易的な家系図のようなもので、誰が不動産を取得したかということが明示されています。これを添付することで、戸籍の束のコピーを取らずに返却してもらうことが可能です。注意点として、戸籍附票についてはコピーを添付して原本還付する必要がありますのでお気をつけください。
以上が相続登記で多く見受けられるケースで必要な書類になります。
もちろん上記以外にも、遺言書があったり、兄弟が相続したり、子供が未成年だったりと様々なケースがあるため、今回解説したパターンにすべて当てはめるのは不可能です。
当事務所にてご相談いただくことも可能ですので、もし手続に迷われましたら一度ご相談ください。
投稿者プロフィール
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令和2年度司法書士試験合格。東京都内の司法書士法人、司法書士・行政書士事務所で実務経験を積み、令和5年生まれ故郷である札幌で司法書士事務所開業。
会社・法人登記及び相続関連業務を得意としています。
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